言い終わるのも待たずに彼はわたしの手を引いて走り出し、風のように路地裏を駆け抜けた。




『待ってよ』

『痛い……苦しい』

『助けて』




 背後から聞こえる子どもの悲痛な声。それに思わず振り向きそうになる。




「振り向いちゃダメだ!」




 しかし彼の大きな声がそれを制止した。




「ど、どうして? あの子達、かわいそうだよ」




 助けて、そう泣きながら懇願するその声に心がえぐられるように痛む。




「いいから! ここまでしつこく追いまわせるんだ、元気だよ」




 その言葉を最後に彼は何も話してくれなくなった。




『なん、デぇ』

『だずケて、ぐれなぃノおおぉお』




 代わりに背後からは先程の子どもの声とは似ても似つかない、耳を塞ぎたくなるような声が響いた。

 一体何が起きているのか、全く理解が追いつかない。そんなわたしに彼は一言、




「飛ぶよ」




 そう言って強く手を握り、大地を蹴った。すると体は綿毛のようにふわりと宙に舞い、そのまま彼は屋根をつたっていく。

 わたしも同じように駆けて行くけれど、なぜ自分がこんなに速く走れるのか、なぜ体がこんなに軽いのか、全てが不思議でならない。

 そうしていくつもの建物を飛び越えて、いつの間にかわたし達はひと際高いビルの上にいた。ようやくわたしの手を離した彼は、申し訳なさそうな顔をしながら口を開く。




「ごめんね、びっくりしたでしょ」