グイッと腕を強く引かれ、丹羽くんの腕に体が包まれる。

「ちょっと……痛いよ、放して」

丹羽くんの顔が近付き、突然私にキスをした。舌が無理矢理口の中に入ってくる。

「んっ!」

肩を押しても丹羽くんの唇は離れない。
こんな形のキスを望んだわけじゃない。酔って乱暴な丹羽くんと距離を縮めたいわけじゃない。

唇がわずかに離れた瞬間丹羽くんの唇を軽く噛んだ。驚いたのか体が離れる。

「なんだよ! 噛むことないだろ!」

「丹羽くんのためじゃん! チームのみんなにも上司にも最後まで丹羽くんの良い印象を残したいの!」

「俺は……良く思われなくてもいい」

そう言って視線をそらす。
それじゃだめなんだ。せっかく望んだ部署に配属されたのだから丹羽くんには上に行ってもらいたい。

「このキスって何のつもり?」

「うっせ……気づけよ」

「ふざけないでよ。酔っててもこんな冗談笑えないから」

「もういい。お前帰れ」

「は?」

丹羽くんは私をフロアのドアの外に押しやった。

「ちょ!」

文句を言う前にドアが閉まり鍵までかけられた。

「丹羽くん!」

ドアの向こうの丹羽くんが離れる気配がする。
いきなり追い出された。今日は丹羽くんとろくに話しもしていないのにいきなり連れ出された上にキスされて追い出されるなんて最悪だ。お酒に強くないのは知っていてもこんなに強引なのは知らなかった。
丹羽くんへの怒りを募らせて私は会社を出た。もうあんなやつ好きじゃない。










翌日から丹羽くんを無視した。仕事上必要なやり取りも最低限にして目を合わせない。
今まで何度か丹羽くんの仕事での強引さや強い意見に付き合ってきたが、さすがに今回は心が折れた。丹羽くんも察しているのか私と距離を置いているようだった。