同時に社長もまた
2つの選択肢から1つの答えを迫られていた。

【婚約破棄をし、イトカを追放】
【自ら代表取締役社長を退く】

どちらとも
金我がイトカに言い放った言葉と意味合いは同じだ。


「ココまで事態が切迫するとはな…
 甘くなかったか…」


手元にある束になった書類を目通し終えた社長は
溜め息を吐きながら頭を抱えていた。


「シバ社長…大丈夫ですか?」


そんな彼の姿を
鮫島は珈琲をデスクに置きながら
心配そうな表情で声を掛けた。


「あぁ…平気だ」

「ですが…顔色が宜しくないです。
 このところほとんどお食事も召し上がっていないようですし…」

「心配掛けて悪いな…
 俺は本当に大丈夫だ」


顔を上げ力なく微笑む社長の目は
本人の意思とは違い疲れ切っているのは
鮫島も見て取れた。

だから我慢が出来なかった――


「どうして社長が…
 そこまでして苦しむ必要があるんです?」

「鮫島…?」

「婚約を解消して彼女を追放すれば
 社長は辞める必要がないんですよね?
 そんな簡単な事なのに…」

「簡単…か」


鮫島の言葉に
社長はポツリと呟いた。