SIDE 理叶



「壱華、出てくれ。お前と話がしたい」



都内の高層マンションに壱華がいるという情報を聞きつけ、俺たちは急行した。


エントランスから反対側、塀に囲まれた鉄の扉に設置してあるインターホンにひたすら話しかける。



「なあ、理叶。もうやめよう、やっぱりここにいるなんて噂はデマ……」

「頼む、壱華」

「理叶……」



同行した光冴は諦めかけているが、俺はそうには行かなかった。


どうにでも壱華に伝えなければならないことがある。


伝えなければ、壱華の命が危ない。




「壱華……!」

「話すことなんて、ない」

「!?」

「何をしに来たの?」



俺も内心諦めかけていた、そのときだ。


懐かしい、綺麗な鈴のようなあの声がした。


だが、感極まっているヒマなどない。高ぶる気持ちを落ち着かせ、言葉にした。




「真実を伝えに来た。時間がないんだ、聞いて欲しい」

「その前に志勇が帰ってくるよ」

「ああ、分かってる。少しでいい、あの人に見つかって殺されたって構わない。聞いてくれ」



そういうと、しばらく無言の時間が続いた。


これほどまでに沈黙に焦りを感じたことはない。


俺はもう一度話しかけようとした。すると。



「分かった……そこで、待ってて」



壱華が応えた。


それ以来応答は途絶え、再び無音の空間が広がった。