リビングに入るドアをくぐった時だった。
トントントントントントントントントン。
まな板に包丁が勢いよく当たる音が聞こえてくる。きっとキャベツでも切っているのだろう。毎朝、嫌になるほど出てくるレタスとプチトマトとキャベツが入ったシーザーサラダを作っているのだ。

「またサラダー? 」

リビングに入り直ぐにソファーに制服をなげた光樹は、そのままオープンキッチンに繋がったダイニングテーブルに座った。

「またって何よ。嫌なの? 」

「嫌だよ。だってプチトマト入ってるサラダなんて食えたもんじゃねー」

「トマトもちゃんと食べてっ! 血液がサラサラになるんだよ? 」

嫌がらせなのか、由美は毎朝サラダにトマトを入れる。今もプチトマトを左手に2つ持ちこちらに見せびらかすようにしながら喋っている。

「じゃー、その手に持ってるトマト2つだけな」

「ダメだよー。もっと沢山あるだから食べてよー」

「絶対に嫌だね」

「あっ、それともあれかな? 私が長い間触ってたトマトしか食べれないから、今持ってる2つだけとか言ったのかな? 」

由美がニヤニヤしながら光樹の方を見ている。そのせいか、光樹は少し顔を赤くし由美から少し目線を外した。

「ち、ちげぇーし。ただトマトが食いたくないだけだし」

「なんなら。あ〜んしながらトマト食べさせてあげよ〜か〜? 」

「なっ、何言ってんだよお前。そんな事されたら、なおさら食えないっつーの」

「なんでよー。ほら、あ〜ん」

由美がキッチンから身を乗り出し光樹の方にトマトを持って手を伸ばしてくる。

「ほーら。あ〜ん」

さらに手を伸ばしてくる由美に対して光樹は顔をさらに逸らして手から逆の向きに顔を向けた。

「ばっかじゃねーの」

顔を逸らしながら由美に向かって強気で言い返す。

「じゃー、ちゃーんとトマト食べてね。もし食べなかったら、あ〜んして食べさせてあげるからねぇ〜」

光樹は無言になり、顔を逸らしたまま席をたった。

「着替えてくる」

「はぁーい。行ってらっしゃーい」

その後、光樹は制服を持ちリビングを出て洗面所で顔洗った後、服を脱ぎ制服に着替え始めた。

制服を着て光樹は鏡を見て少しだけついた寝癖を直し始めた。

「こうちゃーん。ご飯できたー」

「分かったー」

洗面所で髪を直しながら由美に言い返す。

「早く来てねー」

それに、由美も大きな声で言い返した。

髪を直しダイニングテーブルがある方のドアからリビングに入る。するとリビングちょうど由美がご飯をテーブルに置くところだった。

「今日は何作ったんだよ」

見えているはずなのに、わざと由美に質問した。

「今日はねぇー。なめこの味噌汁とサラダと半熟のハムエッグだよ」

「安定のハムエッグとサラダだな」

光樹の言う通りサラダとハムエッグは毎朝でるレシピだ。違うのはサラダの野菜と味噌汁の具材だけが違うだけだ。

「じゃー、早く座って」

由美が反対側の席を指さし光樹に「ここに座って」と言っている。

「はい。じゃー、いただきます」

「いただきます」

そう言いながら箸を持ち味噌汁を|啜(すす)り始めた。