助手席に乗っていた美紀子さんは、
私にそう言ってきた。
なのに……翔馬君の表情が気になった。
きっと悔しかっただろう。だって……翔馬君は、
人一倍に優勝を望んでいたから。
私との約束があったし……。

「そうね……とても素敵な試合だったわ。
だから翔馬君。気にしないといいのだけど……あの子。
負けず嫌いだし菜乃ちゃんの約束もあったし」

美紀子さんも心配していた。
私は、何も言えなくなる。
黙って窓から見える夜の景色を眺めていた。
夜の景色は、暗いが何だか切なく思えてくる。

「大丈夫さ……あの子は、強い。
それに負けることで、もっと強くなる。
そのためにも我慢せずに悔しがればいいさ」

翔馬君の叔父さんは、運転しながらそう言っていた。
負けることで……強くなるか。
翔馬君……どんな気持ちで今居るのかな?
悔しがっているのかな?いい言葉を伝えて
あげられない自分に少し寂しくなった。

翌日。私は、いつものようにお店に行くと
翔馬君の姿はなかった。あれ……?
どうやって話しかけようか悩んでしまい
あまり寝れなかったのに……。

「あら、菜乃ちゃん。おはよう」

「おはようございます。あの……翔馬君は?」

「それがね。翔馬君があれから夜に
無茶をしたせいか褥瘡(じょくそう)
なっちゃって高熱を出しちゃったのよ」

美紀子さんに尋ねると意外な答えが返ってきた。
じょくそう……?それより高熱って……。
どんな症状が分からないけど翔馬君の身が心配だ。
そんなに酷いの?

「えっ?それって大変な病気とかですか!?」

「縟瘡は、同じ体勢ばかりになっていると
血流が圧迫されて皮膚組織が腐ったりすることよ。
脊損者なら、よくあることなんだけど
酷い高熱や嘔吐とかあって昨日の夜に病院に
行ったらしいわ。今日の朝、連絡があったのだけど
熱は、高いけど大丈夫みたい。
今は、熱が下がるまで入院することになったわ」

えっ……えぇっ!?
私は、いろんな意味で驚いてしまった。
血流が圧迫されて皮膚組織が腐るって
それって……大変じゃない?
考えただけでも背筋がゾッとした。しかし
翔馬君が心配だ。

「本当に大丈夫なんですか!?
高熱だし……皮膚組織が腐るって……」