「本当は、ダメだけど菜乃ちゃんは特別。
あ、菜乃ちゃん。頼むのは、抹茶ケーキだけ?」

「えっ……えっと……抹茶ケーキ1つと
チョコケーキを1つ下さい」

私は、慌てて注文した。
いけない……買うのを忘れるところだった。
美紀子さんが頼んだケーキを箱に入れている間。
私は、こっそり厨房を覗いてみた。

すると……居た。中には、翔馬君と叔父さん。
そして若い女性スタッフが作業をしていた。
丁度翔馬君は、泡たて器でメレンゲを
泡たてているところだった。

ボウルを股に挟み左手で持つと
右手で力いっぱいカシャカシャと音を立てて
混ぜていた。真剣にやっている姿は、
何だか凛々しくてカッコよかった。

(凄い……真剣だ!)

そんなことを思って見ていたら美紀子さんが
「あの子……なかなか真剣でしょ?
将来は、主人と同じパティシエになるらしいわよ。
それとプロの車椅子バスケ選手になって
私達のお店を大きくさせるんですって」と
クスクスと笑いながら教えてくれた。

車椅子バスケ?
それよりパティシエになりたいんだ!?
私と違い夢を持っていたことに驚いた。

「そうなのですか?」

「えぇっ……なかなか目標が凄いでしょ?
昔と違って夢を見つけたからね。あの子……」

そう話す美紀子さんは、ちょっと切なそうだった。
もしかしたら翔馬君の事故と何か関係があるのだろうか。
私は、気になってしまう。

「昔と違うとは……どういう意味で?」

「フフっ……あの子ね。小学4年生の時に
交通事故に遭ったのよ。一時は、意識不明の重体で
翔馬君のお母さんの泣き崩れている姿は、今でも
忘れられないわ。それから何とか
意識を取り戻せたけど脊髄損傷になってね。
歩けなくなったのよ」

せきずい……そんしよう?
聞きなれない単語に私は、衝撃的だった。
どんな酷い状態なのだろうか?

「それで……どうなったのですか?」