「一日中君といられると思ったら、あれもこれも欲張りすぎたな。この暑さで体力を持っていかれたんだろう」

そう言って、水城さんが冷たい水を私に注いでくれた。

映画の後、水城さんがいきなり『湘南に行こう』と言い出した。いい天気だったし、予期せぬ彼の提案に胸が躍った。それに、真夏のドライブは潮風を肌に感じて最高に気持ちがよかった。

「そんなことないです。一気に色んな所へ連れて行ってもらえて嬉しかったです」

ひんやり冷えた水は喉越しがよくて、すっきりする。

「そういえば、プレゼンの日もうすぐですね」

鼻先を擦りつけて甘えるシオンの頭をそっと撫でながら、胸の中の憂い事を彼に悟られる前に私は話を切り替えた。

「ああ、パリメラ側の準備も着々と進んでいる。川野君も頑張っているみたいだな、先日も積極的にプレゼンのためにミーティングをしたいと本社に足を運んでくれた。彼のがむしゃらに仕事に取り組む姿を見ていると、自分が店を立ち上げたときのことを思い出すよ」

私の隣に腰を下ろして、水城さんは私の肩にさりげなく腕を回した。

膝の上にシオンがいて、隣には彼がいる。好きな人に、手を伸ばせばすぐに触れられる距離にいることがこの上なく幸せだ。

――水城君と別れなさい

けれど、幸せを感じる度、その言葉によって胸が締め付けられる。