いきなり彼から電話がかかってきて、動揺しながら自分の部屋のドアを閉める。

「もしもし?」

『こんばんは、今家?』

外にいるのか、水城さんの優しい声の向こうで車のクラクションや街の雑踏が聞こえる。

「はい、水城さんはお仕事中ですか?」

『ああ。今、ひと区切りついたところなんだ。特に用事はないんだけど……どうしてるかと思って』

それって、私の声が聞きたかった……とか?

まさか、と思いつつもうぬぼれたことを考えてしまう。

『今日は一日中、箱根にある店舗で会議だったんだ。ちょうど今、東京に帰ってきたところ』

パリメラグループの店はレストランだけじゃない。全国に展開している他業種の店の視察に、水城さんは毎日奔走している。だからか、電話の声もどことなく疲労の色が滲んでいるように思えた。

「お疲れ様です。大変でしたね」

『今週末の謝恩会の話は聞いてるか?』

「はい。ゆ……父から聞きました」

つい口が滑って、「優香から聞きました」と言いそうになるのを慌ててフォローする。

『謝恩会までに折を見て君に会いたいと思っていたんだけど、急な用事が立て続けに入ってしまって、次に会えるのはパーティー当日になりそうだ。すまないな、なにもしてやれなくて』

「いえ、水城さんも忙しいのに……私と会う時間よりもゆっくり身体を休めてください」

『ああ、ありがとう』