水城さんは素敵だし、心が何度も揺れ動いた。けれど、彼は私を優香としてしか見ていない。

――君の気持ちもちゃんと聞かせてくれないか?

ふと、水城さんの言葉が蘇る。

すでに恋人同士なら、水城さんがそんなこと言うなんておかしい。ずっとそう思っていた。優香に聞かずとも、おそらくこのふたりはまだ恋人同士でもなんでもない。それをどうして恋人として振舞って欲しいだなんて言ってきたのかわからないけれど、週刊誌のことを理由にお断りする絶好のチャンスだ。

それに、父だって水城さんのことを知ったら『そんな浮気な男にうちの娘はやれん!』って流れになるだろう。なぜそんな男を紹介してしまったのかと、父はうしろめたさを優香に感じるはずだ。そして、恋人解消になれば私が演じなくとも優香と彼氏はまだやっていける……。

「すごい、それって名案じゃない! 完璧!」

ふと浮かんだ策に自画自賛したくなった。優香はいきなり大きな声を張り上げる私を見てきょとんとしている。

「わかった。優香、その謝恩会行くよ」

「ほんと! よかったぁ、さすが愛美!」

私の目論見も知らずに優香はかわいい笑顔を浮かべている。

これで全部綺麗に何もなかったことになる……。これ以上、水城さんを騙すこともできないし、なにもかも終わりなんだ。

そう思うと、なぜか水城さんが私に微笑みかけてくれたあの顔を思い出す。誠実そうな人だし、手が早そうにも見えない。あの週刊誌だってなにかの間違いだと私もそう思いたかった。

彼の笑顔は私の心を締めつけてやまない。

私は胸の片隅で疼くなにかに気づかない振りをすると、誘われるまま微睡に落ちていった――。