チリンチリンチリン……

危うく、後ろから走ってきた自転車にぶつかりそうになってしまった。危機一髪のところで避けたからよかったものの。

ああ私ったら馬鹿だなあ、こんなに浮かれてしまっている。

今日は待ちに待った土曜日。郁也とデートの日。

浮かれすぎて、予定よりも随分と早く集合場所についてしまった。

いつもは、あのことを思い出してしまうから、待つのはあんまり好きじゃないんだけど。


「あれ? 林檎?」



そう声をかけられて、ふと顔を上げた。

そこにいたのは、さっき通り過ぎたはずの自転車に乗った、雄也だった。



「雄也?!」

「すげえ偶然!」

「いきなり話しかけられたからビックリしたよ」


雄也は、ダメージジーンズにTシャツにネックレスというラフな格好をしていた。でも、それだけでもカッコよく見えてしまう。顔が整ってるって得だよなーなんて思ったりして。


「今から誰かと遊ぶの?」

「俺? いや。ブラブラしよーと思ってさ。暇だし、DVD借りてから郁也の家にでも行こうかなーなんて」


そう笑うから、なんだか言いにくい。今から、郁也がここに来ること。


「ああ、えっと、たぶんいないよ、郁也」

「え、なんで? あ、もしかして今から郁也とデートだった?」


その言葉に、顔を赤くした私を見て、雄也は笑った。


「なんだ、そっか。どこ行くの?」

「映画かなあ……」

「へえ、いいじゃん。郁也はまだ?」

「私が予定より早く来すぎちゃったから」

「……林檎はさ、郁也のどこが好きなの?」


私が少し雄也から視線を外した隙に、雄也の声のトーンが落ちた。