彼女を見つけてから、俺はそこかしこで彼女を見つけられるようになる。
役員フロアだったり、総務部へ行った時だったり、帰宅する頃に社長の会食へついていく際のエントランスホールであったり。

こう、目について追ってしまうことが続いた頃に俺は自覚した。
彼女に一目惚れをしたのだと。

そうと自覚すると、俺は考えて慎重に動き出すことにした。
なにしろ、俺の性格を知ると付き合ってきた女性達に次々と別れを切り出されてきたのだ。
感覚的に、彼女を逃せば次はないと感じている。
だからこそ、慎重に行動を始めた。

彼女を、めいっぱい愛させてもらえるように……。
受け入れてもらえるように……。

着々と、距離を詰めるために俺はちょくちょく動き回るのをいい事に、上手いこと彼女に近づいていった。

まず、総務に行く時は探すし、使える時は社食を使い、あからさまに彼女に前を陣取って会話をしたり、エントランスですれ違う時も一声かけた。

少しづつ、距離を詰めて行ったと思うし、遭遇する時は、何故かタイミング的に彼女がすこし危ないときなのでそれを庇ったりしてきた。
転びそうになったり、書類をばらまいてしまっていたり。
そういったことを助けているうちに、すっかり顔を合わせても、しっかり会話ができるようになっていた。

この日も、定時すぎに総務部に行くとコピー機の前で頑張っている。
「平野さん、どうしたの?」

「土居さん! すみません。紙詰まりなんですけど、上手く抜けなくって……」