トラには悪いけど、友達と一緒に遠出して心行くまで写真が撮れる…なんて、浮かれないわけがない。

しかも、それだけじゃなくて……俺が浮かれている最大の理由は、トラの代わりに 美麗が一緒に行くことになったからだ。


早朝の移動、知り合いの居ない土地、そして目的地は 他人との接近が少ない森林公園。

子供用の遊具がある場所を避ければ人は少ないし、コンビニで弁当か何かを買っておけば そのまま公園内で食べられる。

もちろん、人が居ない場所を選んで、だ。

帰りの電車は多少混むかもしれないけど、美麗とは また少し離れた場所に座れば大丈夫。


……と色々な提案を出してメールを送ってみたら、【行く】との返事が来た。

きっと断られるだろうな…と半ば諦めていたのに、まさかまさかのオーケーだったんだから そりゃあ浮かれるに決まってる。



「……落ち着け、俺。 ニヤけるな」



両頬をパンッと叩き、気持ちを引き締める。


待ち合わせ時間は6時ちょうど、場所は駅前だ。

予報は曇り時々晴れ。

風もなく、過ごしやすい1日になりそうだ。



「……あー、ヤバいなこれ。 すげー楽しみなんだけどっ」



気持ちを引き締めたはずなのに、結局またニヤけてしまう。

当然のように足取りも軽く、俺は待ち合わせの時間よりも10分早く駅前に到着した。

……にも関わらず。



「あっ、円くんおはー」

「おはよう、マル」



……早乙女姉弟は、俺よりも早く駅に到着していた。