何も考えずに、どこを目指しているのかもわからないが、ただひたすらに歩いている。真っ赤なネックウォーマーをしていて、左目の周りには火傷の跡がある。右目だけは長い前髪で見えない。これで前が見えるのか?と言われれば、"彼"は頷くだろう。瞳には真っ黒な色の真ん中に、一本、白の横線がある。そして、少し半目だ。
同じペースで歩いていると、後ろから"彼"の肩に手が置かれた。と、思うと同時に声も聞こえた。
「___おい。」
身体を90度、頭を180度ぐらい回転させると、"彼"より背が高く、少し老けた男がいた。そしてその後ろには、ガードマンらしき人物が2人いる。1人は、顔はあまり見えないがボーッとしている雰囲気を出している。もう1人は少し肩を強張らせ、緊張しているかのようだった。"彼"はその2人を確認した後、改めて男に向き直った。やがてその男は、嫌気のある笑みを浮かべて言った。
「...今日の試合もダントツだったなぁ!また
次の試合も頼むぞ!」
"彼"は、こくんと小さく頷いた。これは、ほぼ毎日やっている会話である。いつも同じ時間帯にこの男がやってきて、同じようなことを言っては、すぐに帰る。
今日も男は"彼"の返事を確認すると、もっと言うことはないのか、というような嫌な顔をして来た道であろう道をUターンし、歩いていった。その男のもっともっと奥のほうには、巨大な城がある。全体的には白いが、ところどころに黄金色が太陽に反射して光り輝いている。初めて見る人はその美しさに見惚れてしまうだろうが、"彼"は一瞬見ただけで顔を逸らし、道に足を進めた。