(……聞こえたっぽい人があんまりいないのが唯一の救いかなあ)


実は昨日のホームルームで席替えをした。

現在の私の席は窓際の一番後ろ。

よって左側は窓で、後ろには誰もいない。

前に座っているのは親友の弥生だし、個人的には最高の席だ。

おそらく今のお腹の虫も、弥生の他は右隣の席くらいにしか聞こえてないだろう。

だがしかし、その隣の席が結構問題だったりする。


……ちらり。

横目で隣をうかがう。


すっと伸びた背筋。

美しい姿勢で授業を受ける、整った横顔がそこにはあった。

眼鏡越しの目はまっすぐに黒板の文字と、解説する先生を追っている。

弥生とは対照的に、私のお腹の騒音に全く反応していないようだ。


我らが2年3組のクラス委員・広瀬(ひろせ)主税(ちから)くん。


……聞こえなかったのかなあ?

それならいいんだけど。

いや、でも結構大きい音だったけど聞こえないなんてあるのかなあ。

いやいや、広瀬くんは真面目だからすっごく授業に集中していて聞こえてないのかも。

頭の中でピヨピヨせめぎあう二つの考え。

うーーん。わからない。

でも、できるならどうか聞こえてませんように。

そうひっそり祈ると、私は残り時間をひたすらお腹に力を入れて過ごした。