そんな彼を見てひとつだけわかったことがある。水野君は今も、苦しみの中にいるんだってこと。
「それって、私に似てるっていう蒼君のこと?」
時々話題には出ていたけれど、いつもそこまで深く話したことはなかった。聞けないような雰囲気を出すから、私からあえて聞かないようにしていた。
でも、今は知りたい。水野君と蒼君のこと。
「そんなこと……どうでもいいだろ」
「ど、どうでもいいって……とてもそんな風には見えないよ」
「どうでも、いいんだよ」
よくないでしょう。
だって、傷ついたような顔をしてるじゃん。なにかあるって、顔に書いてあるじゃん。
強くそう言い切られて、それ以上はなにも言えなかった。
「夏目はしつこいぐらいがちょうどいいんだから、早く元どおりのおまえになれよな」
私の気持ちなんてスルーして、水野君はすっかりいつもの調子に戻っている。
「私と仲良くしたくないんじゃなかったの……?」
誰とも仲良くするつもりはないんじゃなかったの?
水野君にしつこく絡むだけの私は、迷惑でしかないでしょ?
「夏目こそ、俺のことが嫌いなんじゃなかったのかよ? 最初の頃、俺にストーカー扱いされたって怒ってたよな」
「そ、そういえば」
そんなこともあったっけ。今はもう遠い昔のことのように思える。
「仲良くなるつもりはなかったのに、しつこい夏目に影響されたのかもな。今では、それも悪くないって思える」
まさか水野君がそんな風に言うなんて思ってもいなかった。
「人の気持ちは変わるんだな」
「そうだね……」
最初は苦手だったのに、水野君のことを好きになるなんて想像もしていなかった。
「明日からは俺もここで弁当食うから」
「え?」
「俺も外で食いたい気分だから」
水野君はもしかすると、私がクラスで浮いていることを知ってそんな風に言ってくれたのかもしれない。
一見冷たそうに見えるけど、中身はとても優しくて。少なくとも私のことを心配してくれているってことだよね。それがとても嬉しくて、でも複雑で。そんな水野君のことを、もっと知りたい。全部知りたい。
でもその前に。
蓮のこと。
皐月のこと。
瑠夏ちゃんのこと。
なにもかも、全部がこのままじゃダメだよね。
改めて強くそう思わされた。
そして一番に浮かんだのが、なぜか蓮の顔だった。