「……何その顔」
いや、こっちが聞きたい。
『おはよう』と挨拶した、ほんの数秒前の菅原はいったいどこへ行った?
「もしかして、まだ信じてたり?」
「……何が」
「昨日話しただろ?あれはニセモノだって」
ああ、やっぱり昨日のは現実だったらしい。
目の前の男はもう“王子さま”なんかじゃない。
今だって意地悪そうに笑っている。
「知ってる……っ!?」
その時、突然ガタッと電車が大きく揺れた。
完全に油断していた私は、反射的に菅原のシャツを掴んでしまう。
「ご、ごめ……」
「掴んどけば?」
シワになると思って手を離そうとすれば、菅原がそう言ったため、甘えることにした。
きゅっとシャツを掴みながら、電車にゆられ続ける。