捕らわれたままの少女の目が、螺旋の光を放った。

だが秋人の塗りつぶされた目は、その光すら全て吸い込んでしまう。

彼はただ黙って凛香を見つめていた。

それは彼女を憐れんでいる様にも、何を言うべきか迷っている様にも見えた。

やがて彼は口を開き、虚空に消え入る様に言葉を紡いだ。



「今までありがとう、りんちゃん。僕は……君と一緒に生きていく」



その瞬間。凛香の双眸から螺旋が消え去った。


「こちらこそありがとう……秋人君」


彼女は救われた様に、屈託のない笑みを浮かべる。



「最後の最後まで――優しいままでいてくれて」



そして『警備員』達に連れられ――夏宮凛香は『特別学級』から永遠に去った。

再び重々しい音を立てて閉じた扉を見つめる秋人の頭を、『ペインター』先生が撫でる。


「それで正解だ、東雲。お前はもう正直者などではない。だから、私に言われた通りにする必要などどこにもないのだ」


「ええ、分かっています」


秋人は振り返ると……彼女を見上げて、人生最後の涙を浮かべながら言った。





「×××は××××××――なんて、僕は思っていません」


(終)