一番前の席で、あどけない顔立ちの茶髪の少年が好奇心を丸出しにしていた。


「ここは言わば『特別学級』だ。それ以上でもそれ以下でもない」


素っ気ない女教師の回答に、少年は天真爛漫な笑顔を向ける。


「どうして普通の人と違う場所で、違う授業を受けなきゃいけないのですか? 早く学校に戻って岡村君とサッカーがしたいと思います!」

「決まってるだろう、お前たちが普通と違うからだ。それと東雲秋人(しののめ あきと)、岡村秀樹はもうお前とはサッカーをしたくないそうだ」

「え……?」


初めて、秋人と呼ばれた少年の顔が曇る。

だが、すぐに彼は何かを思いついた様に顔をパッと輝かせる。


「分かった! 岡村君はサッカーに飽きちゃったんだね! それなら野球をすればいいんだよ!」

「岡村は今でもサッカーをしているそうだが」

「んーじゃあ何でだろう……まあいいや! 岡村君はとっても面白くて人気者だし、僕を嫌いになったりしないと思います!」

「そういう君は果たして面白くて人気者なのか?」

「それは分からないけど、僕は岡村君が大好きです! 岡村君も僕のことをオトモダチだと言っていました!」


すると、女教師の整った顔立ちが醜悪に歪む。


「東雲、それを人は体裁と言うのだよ」

「テーサイ……? テーサイとは美味しいのでしょうか?」

「東雲秋人。お前の家族構成を言ってみろ」


藪から棒な質問をされ、秋人は困惑する。


「家族? えーとね、お母さんは主婦でよく僕と遊んでくれるよ。お父さんはとっても頭のいい『えりーとさらりーまん』だけど家にはほとんどいないの。でも、幼稚園生の弟とはとっても仲良し! だから僕の家族はとてもいい家族だと思います!」

「なるほど。では質問を変えよう。お前は最近自分のクラスで異変に気付かなかったか?」

「何もなかったと思うけど……もしかして先生、僕のことからかってる?」


そう言って無邪気に笑う秋人に、


「いや、からかってなどいない」


女教師がポケットから取り出したリモコンのボタンを押した瞬間――



【ズバチッ!】



鋭い閃光と共に秋人は白目を剥き、金切り声を上げて椅子から転げ落ちた。