李那の手を握る。
「…」
ゆっくり李那の顔が動いた。
ガーゼを貼られた李那が俺を少し見る。
「…李那…」
「…」
李那は何も言わない。
ただ、ずっと握られている自分の手を見つめている。
「李那のお母さん。」
「何?」
「李那、記憶喪失ではないですよね?」
李那のお母さんが答えるより早く李那の首が左右にゆっくり振られた。
「…李那、ゆっくりでいいから話せるようになろう。俺も、頑張るから…」
李那の長い睫毛が伏せられた。
「…明日も、来るから…」
李那の顔が上がりふるふる首を振っていたけどお構い無し。
こんな状態の李那を放っておけるか。
「李那のお母さん、また明日来ます。」
「あんまり無理しないでね。」
「…分かってます。」
本当は勉強が捗っていない。
勉強が大事で進路にも影響してくる高2の後半。
一番大事な時期に何も出来ない。
いつも、李那がそばにいてくれてたから…

「ー…ていうことだったんだよ。」
月曜日。
蒼空と海澪ちゃんに訳を説明した。
「李那、思い詰めすぎていたんですね…」
「そうかも、しれないな。」
李那は顔に出さないで思い詰めるような子だから。
分かっていたのに、気づかなかった。
そんな自分に腹が立つ。
【中矢裕side END】

【更科蒼空side】
裕さんが泣きそうになりながら俺らに全てを話してくれた。
「…」
「…」
教室まで、こんなに長かったか?
海澪も俺も、一言も話していない。
李那があんなに思い詰めていたなんて知らなかったから。
李那の性格分かってるつもりだったのに…
全然力になれなかった…
「おーい!更科!」
…ん?
加藤先輩?
「どーした、そんな辛気臭い顔して。」
「まあ、色々ありまして…」
先輩にも色々あった。
俺は結局世話になりっぱなしで…
何も恩を返せていない。
「晃也、なんでお前そんな元気なんだ。
さっきまで説教くらってたくせに。」
「うるせぇよ。更科が見えたんだからしょうがないだろ。可愛い後輩なんだから。」
…新しい人だ…
知らない人は苦手だ…
海澪は先行っちゃうし…
「ふーん…可愛い後輩、ねえ…」
加藤先輩と並んだ背の高い先輩が俺を見る。
「確かに顔はそこそこだよな。」
「いやそう言う可愛いじゃねえの。お前にもいるだろ可愛い後輩。」
とてもとても身長が高い。
俺と20cmは違うんじゃないか?
俺が161だから…
180くらいかな。
羨ましいくらい手足が長い。
「ああ。いるな。」
「そういう事だ。」
「でもこいつ、なかなかじゃん?そういう意味でも。」
「あー…更科、こいつ陸上部の黒田ってんだわ。」
陸上部ってことは裕さんや李那のこと知ってるんじゃ…
「どーも。
3年の黒田慎吾だ。」
「2年の更科蒼空です…」
黒田、慎吾先輩。
顔もかっこよくて声も低めで何より身長が高い。
モテそう…