「じゃああたしが会ってくる」
「えっ、え、ちょ、真帆!」
仕方ない、ビビり結衣ちゃんのために人肌脱いであげましょう。
これも海斗のため!
「あの、あたしの友達に、結衣に何か御用ですか?」
いざとなると怖がりな友達を置いて、櫻井君の目の前に現れる。
「え」
びっくりと、顔に思いっきり書いてある櫻井君。
驚かせるくらい、突然だったかな。
「すみません、今日急いでるんです。取り急ぎじゃなきゃ、明日でいいですか?」
結衣は急いでないかもしれないけど。
結衣の彼氏さんにこんなの見られたらまずいに決まってる。
とにかく都合が悪いんだ。
今日はひとまずいなくなってくれ。
「結衣、行こ」
下駄箱に隠れている結衣に手招きした。
返事はないけど、届いてるよね。
のそのそ出てきた結衣の手を取った時。
「取り急ぎ、です」
彼の、櫻井君の低い声が聞こえた気がした。
「え…」
驚いて振り返ると。
「…俺だって今日は大事な用があるんです!」
叫んだ、櫻井君に。
その大きな声にみんな振り向いた。
あたしも、結衣も目を見開いて、彼を見た。
櫻井君の目はギラギラと光っていて、少し怖い、狂気のようななにかを感じた。
その目はてっきり、結衣を見てると思ったのに。
結衣じゃなくて。
「聞いて、くれますよね?」
こちらに向いていた。