父かと思いリリアは身を強張らせたが、すぐに別人だと気づきほっと力を抜く。

馬は父の持つそれよりもしっとりと艶やかな黒い毛並みで逞しく、なにより男の顔は若々しい。

見慣れぬ男であり外套を纏っていることから、リリアはもしかしてとオルキスへと視線を向ける。


「そのままで」


自分を見たリリアへとオルキスは短く囁きかけると先に馬を下り、手綱を引きながら男に向かって歩き出した。

男もすぐに向かってくるオルキスに気がつき、表情を明るくする。

なにやら話しかけようと口を開いたのだが、馬上に乗っているリリアへと視線を上昇させると、一瞬でその表情を驚きへと変化させた。


「……え?……まさか……本当に?」


口をぽかんと開けたまま、リリアと馬を引くオルキスへと視線を行ったり来たりさせ、最後に男は「参りました」と笑みを浮かべた。

おそらくオルキスの連れであろうその男が、何に対して驚いているのかリリアには全く見当がつかなかった。

自分に向けられる好奇の眼差しに耐えきれなくなり、白馬の横を歩くオルキスへとそっと手を伸ばす。


「オルキス。やっぱり私も降りるわ。手を貸してもらえる?」