私よりも聡次郎さんが先に出勤した日、部屋に鍵を置いてきてしまった聡次郎さんは私の合鍵がなければ部屋に入れなくなってしまった。今夜はアパートに帰ろうとしていたけれど聡次郎さんの部屋に戻ることになった。
ご家族も合鍵を持っているはずだけれど、私に家に居てほしいと言われたら嬉しくて夕食の準備も機嫌よくこなす。

お皿に盛りつけをしているとチャイムが鳴った。
聡次郎さんが帰ってきたのだと思い私はすぐにドアを開けると、そこに立っていたのは聡次郎さんではなく愛華さんだった。

「三宅さん……?」

「あ……」

愛華さんが目を見開き、今まで見たことがないほど動揺していた。
私も驚いて「なんで……ここに?」と質問する。

「あの……聡次郎さんに会いに来たのですけど……」

「えっと、まだ帰ってきてません……」

私は馬鹿正直に答えてしまった。愛華さんはこの言葉で私と聡次郎さんの関係を理解したようだ。顔を真っ赤にして、今にも目から涙が零れ落ちそうだ。その姿に私は悪いことをしたような気持ちになってしまった。

「すみません私……勝手に押しかけてしまいまして……」

愛華さんは戸惑いながらも私の顔を真っ直ぐ見た。

「三宅さんだったのですね。聡次郎さんのお食事のお相手は」

肯定したものか否定したものか迷っていると、愛華さんの目からついに涙が零れ落ちた。

「なのに、私は失礼なことを……」

「あの……」

「申し訳ありませんでした……」

「…………」

なんと言葉をかけたらいいのかわからない。もうすぐ聡次郎さんも帰ってくるし、部屋に入れた方がいいのだろうか。