「いきなり何言い出すんですか、失礼ですね。ちゃんと残さず食べてますよ。それに折れたりしませんから」
そもそも貴方と腕相撲とかしようとは思いません。
「確か教会と系列した施設で今は暮らしてるんだよな。そりゃ食わず嫌いしたら神様とやらに叱られるか」
「生憎、私は神様を信じていませんので」
私は恭介さんから目を逸らした。
「信じてないのか?施設側が泣くぞ」
「そういう貴方は信じているのですか?神様を…」
「さぁな。見たことねぇからな」
元いたソファに座りなおすかと思えば恭介さんは私の隣に座った。
何故隣に?と質問しようかと思いましたが恭介さんの発言でその疑問はどうでもよくなりました。
「さっきから勝手に呼んでたが、オレは香菜って呼ぶが異論あるか?」
「無いです」
「オレのことも好きに呼べ」
と言われましても実業家の息子が義理とはいえ兄になるのですから、やはり無難が一番ですよね。
「お兄様」
「は?それはやめろ」
「何故です?」
首を傾げると恭介さんはバツの悪そうな表情をしながらガシガシと自分の頭をかいた。
「そういう柄じゃねぇからだよ。実業家の息子とか関係なしで呼べ」
「では、恭介」
「呼び捨てかよ!?」
「恭介さん、と呼ぼうと思いましたが嫌ですよね?というか合いません。しかし…お兄ちゃん、も合わない気がしますし」
「……………」
これは、さすがに怒られますかね
義理の妹になるとは言え今日初対面の小娘から呼び捨てされるのは嫌なはずですし、お兄様の次にいきなり呼び捨てですから怒られるのも無理ありません
無難に恭介くん、と呼ぶべきでしょうか…
「そうか、ならそう呼べ」
「え?」
キョトンとする私に恭介さんも同じくキョトンとした表情をしたので困惑しました。
「ん?どうした」
「いえ、怒られると思ったので」
「別に。呼びやすいなら恭介でいい。好きに呼べって言ったのはオレだ。オレとの関係も焦らず少しずつ詰めていけばいい」
「恭介…」
「んじゃ…よろしくな、香菜」
中学生の割に見た目は派手で一見チャラいイメージを持つ恭介の笑顔はこの時に初めて見ました。
その笑顔の温もりでわかったのです。
恭介は不器用で温かい人だと。