「お前、考えてること顔に出過ぎ」

「えっ?」

「自分が何かされるかと思ってんだろ」

「いや、だってあの、現にキスしたじゃないですか!一ノ瀬さんといると何されるか分からないし……」

「しねーよ。あれは単なる口止め料。そんな心配はもっと色気出してからしろよ?」

「なっ……」


ピシャリと言い放たれた言葉に、私は何も言えなくなった。

勝ち誇ったように笑う彼はやっぱり悪魔だ。

カツカツと靴の音を響かせて、私の横を通り過ぎたかと思ったら、一ノ瀬さんは何かを思い出したかのように振り返る。


「ああ、そうだ」

そして目が合ってにやり、と持ち上げられた唇はしっかりと私にトドメを刺して来た。


「何でもない時にお前を襲うほどこっちは女に困ってないんでね」


眉がピクリと動く。
今の言葉、録音して社内の女性社員に聞かせてあげたい。きっと何人か卒倒するだろう。


「早く来いよ」

人の返答も聞かずに歩き出した一ノ瀬さんの後を追うように私はオフィスを後にした。