「断る理由はありませんが、会ってどうするのです」
「知恵を借りてきて欲しい。私の母は、あらゆることを記憶している」
「何のために」

 無論、と恵弾は言葉を置いた。
「姫様の命を救い、我々の命を守るためだ」
 明千は、その鋭い目を少し、細めた。


 十七日の月がある。明るいので、手元に灯はない。城から伸びる大通りには、人の通りこそあるものの、灯があるのは飯屋か宿屋で、昼間の賑わいはない。

 ――昼間と言っても、自分は滅多に来ないが。

 楴明千は、火の見櫓のある大きな辻へ入った。宿居場の前を通り、また暫く歩く。木戸に、薬と書かれた店で止まった。
「向かって左手に通路がある。それを進むと店の裏手で、住まいになっている」
 恵弾に言われた通りに進み、灯りがついている屋内へ声を掛けた。