しかし、恵弾も首を横に振った。蛇殺し草の毒を消す薬は、無い、と。

「消せずとも、娘の命を長らえることは」
「それも」
 暁晏が否と云う。


 恵孝は膝を曲げて、泣く侍女と目線を合わせた。
「手頃な大きさの竹の炭を用意できますか」
 肩で息をしながら、侍女は顔を上げる。
「そうしたら、姫の、毒が」
 いいえ、と眉を下げる。
「それを麻の布にくるんで、姫様の足の近くに置いて下さい。炭が、この膏薬の匂いをやわらげます。あなたが、お世話しやすくなります」

「私の、心配など、無用です」

 侍女は薄い唇を結んだ。

「毒は消えぬのか」
 再び、章王が問う。
「姫の命を長らえることは出来ぬのか」

 三人の医者は答えに窮した。今、出来ぬと言ったばかりである。

 章王の瞳が、鈍い光を放っていた。