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「おはようございます」
 慌ただしい仕事場に挨拶をする。すると、ひとつ上の先輩が声をかけてくれた。
「千歳(ちとせ)ちゃん、これに着替えて」
 赤と白の衣を渡され、背中を押される。
「急いで」
「は、はい」
 更衣室に案内され、着替えを始める。
 忙しそうだな。私、ちゃんと仕事ができるかな……。
 着替えを終わったあとも、不安で不安で仕方なかった。
 更衣室を出て廊下を歩いていると、神主さんに出会ったので、軽く会釈をした。
「千歳ちゃんだね。初めてで不安だろうけど、よろしく頼むよ」
 慌ただしい空気の中、神主さんはどこかゆったりとした雰囲気でそう言った。
「はい。よろしくお願いします」
 対して私は、どこか気の張った雰囲気で応えた。
 向かう方向が一緒なので、私は神主さんの後ろを、距離を取って歩いた。実際の神主さんの足どりは速いのだが、ゆっくりとしている印象を受ける。また、柔和な笑顔を見せるのに、どこか厳かな感じがする。「これが神主さんなんだなあ」と、間近で見て感じた。
 神主さんと別れ、私は先輩の元に着いた。
「初めてにしては、まあまあのタイムだね」
 先輩は軽く笑う。
「じゃあまずは、境内の掃き掃除をしてもらおうかな。道具は物置小屋にあるからそれを使って。物置小屋は向こうね」
「わかりました」





 ザッザッ。
 竹箒(たけぼうき)を握り、落ち葉をかき集める。しかし、せっかく集めた落ち葉は風に舞う。チリトリを使うタイミングの重要性を認識した。
 寒空の中、ふきつける風が1枚また1枚と木に付いていた葉っぱを落とす。掃いても掃いても落ちてくる葉っぱに少しイラッとしながらも、「仕事だから」と割りきって落ち葉を集める。
 そこにひとりの男がやって来た。
「あの、おまもりひとつ。それと……」
「おまもりですか? おまもりなら向こうで売っていますよ」
 少し挙動不審な男に私は笑顔を向けて言った。
「おまもりと……。それと……」
「それと?」
「千歳さん! あなたをください!」
「えっ!」
 幸い周りにはお客さんは少なかったが、私は恥ずかしくなり、顔を赤く染めた。
「千歳さん! あなたをください!」
「ちょ、ちょっと止めて下さい。そもそもあなたは誰なんですか」
「僕ですか? 僕は神優(じんすぐる)です」
「じんすぐる? 覚えがないようなあるような」
「ほら、小学校、中学校、高校そして今、大学と、ずっと一緒でしょ。席が隣になったこともあるし」
「あんまり記憶にないんですけど……」
「小学生の時、クラスで一番早く席についていたのは僕です」
「はあ……」
「中学生の時は、学級委員長でした」
「うーん……」
「高校生の時、体育のバレーボールで顔面にボールが当たって、病院に運ばれたのは僕です」
「あ! それ知ってる! っていうか、そのボール打ったの私だよね。ごめん」
「いや、いいんだ。こうして記憶に残っていてくれたし」
「もしかして大学は、○○大学?」
「そう! 僕のこと、思い出してくれた?」
「うっすらとね……」
「そっか。ところでさっきの返事を聞かせてもらえないかな」
 優は真っ直ぐ私を見つめる。その視線に優なりの情熱を感じた。私は握っている竹箒を、より力を込めて握った。
 答えを返そうとした時、声がかけられた。