「君は俺のことをどう思ってる?」

私が先生をどう思ってるか…?

宙を見上げて少し考えた。

「…私は、先生が患者にも医療スタッフにも分け隔てなく優しいところとか、休憩中でも嫌な顔をせず食事相談に乗ってくださる心の広さとか、今の神田先生のことも…先生は全然悪くないのに謝ってくださったり…尊敬してます」

…なに言ってるんだろう私。

先生のいいところがポンポン思いついて、まだ出てきそうになって喉の奥に押し込めた。

「それなら悪くない話じゃないか?
契約結婚と言えど、仮面夫婦でいるつもりはない。
結婚は女性にとって幸せなものじゃなきゃいけない。
できる限り君が幸せを感じられるように努力しようと思ってる。
真面目に考えてみてほしい」

先生は壁から手を離し、何事もなかったかのようにタクシー乗り場へ向かう。

頭の中は疑問符でいっぱいだけど、私もとりあえず足早に後ろをついていった。

「せ、先生、今の本気で言いました?
酔っ払って冗談言ってます?」

「酔ってるように見えるか?
酒は強いほうだし、正気のつもりだけど」

肩越しに振り返った先生はふっと微笑んだ。

「…君は今酔ってるし、混乱してるかな。
またあらためて話をしよう」

そう言って私を先のタクシーに乗せた先生は、1万円札を手渡してきた。

「えっ先生いいですこんな!」

「いや、今日のお詫びだ。それじゃ」

返そうとしたお札を握りしめたまま、タクシーのドアは閉まった。