「それに、あなたと出会ってから殿下のご機嫌もよくて助かります」

言われた言葉に真っ赤になる。

ウォル殿下はいつも笑っているからわからないけど、噂の通りの“氷の如く”な人であるのなら、ご機嫌は大切だよね。

そんなことを考えていたら、いつもとは違う区画を歩いていることに気がついた。

「あの、ルド様? こちらは……」

「ああ。すみません。今日の殿下は執務室にいらっしゃいまして……」

「そんな所に、私がお邪魔してもいいのでしょうか? さすがに問題があるのでは」

ルドさんは何かを言いかけて、突然聞こえてきた騒ぎに立ち止まる。

廊下の奥の方で、男の人たちが互いの服を掴みあっていた。

「あら、まぁ……」

こんなところで、掴み合いの喧嘩なんて……騎士団ならわかるけど、内宮は内務省が集まるところだよね?

ポカンとしている私を片手で制してルドさんは立ち止まると、軽く舌打ちしてる。

「すみません。こちらで少しだけお待ちいただけますか? あなたを巻き込むわけにはいきませんから」

……荒事が苦手だとでも思われているんだろうか。

普通の令嬢なら、そうかもしれないよね。

ここはおとなしくしておこうかと、黙ってルドさんが彼らに向かって行くのを見送る。

そうしていたら、いきなり目の前のドアが開いて、そこから伸びてきた手に腕を掴まれた。

「な……っ!」

叫ぼうとした口を押さえるように塞がれて、部屋の中に引き込まれる。