ち、近っ!
勢いよく笑顔で顔を上げたら、思いの外水野くんの顔が目の前にあって…。
慌てて身を引く。
「あ…いやっ…よかった!怒ってなくて…安心した!ごめんね遅れちゃって。」
「いやっ……別に…そんな待ってねぇし。」
ここは結構大きい駅の前で、人の声や工事の音、電車が走る音やアナウンスでうるさいはずなのに、
なぜだか私たちの周りだけ、時が止まったように静かだった。
夏に入る前の梅雨の時期なのに、体が熱い。
自分の手で口元を隠した水野くんも、心なしか顔が赤い気がした。
照れ……てはないよね。あの水野くんだし…。
そのことにちょっと肩を落とす。
「んじゃ、さっさと行こ。家、案内して。」
「う、うん!」
さっきのニコニコな態度とは裏腹に、いつもの無愛想に戻った水野くん。
さっきの出来事に未だドキドキしているわたしには、これが彼なりの照れ隠しなんて、わかるはずもなかった。