このセレスティア王国には、ひとりの王太子と、ひとりの王女がいる。

どちらかと言うと穏和で物静かな王太子と、お転婆で少しだけわがままな王女殿下。

王太子は今年で14歳。王女殿下は10歳。

ゆくゆくは政治的にも問題ない家に、王女は嫁ぐことになるんだろう。

だけど、兄である王太子の婚約者……公爵家の姫様が病を得て、婚約者候補から外れた。

その新たな婚約者も選定に入ったばかりだと聞くのに、どうして自分の結婚が先になると思ったのか。

それでも、幼いながらの真剣さは、わからないでもない。

「王女様にとってはチャンスだったのでしょう。吹雪の夜は、どうしても城の警備が手薄になりますから……近衛の方も大変でございます」

フワフワしてきた思考で思ったままに呟くと、鋭い視線が返ってきた。

「王女を見つけ、保護をしてくださった礼はいたしましょう。しかし、近衛兵団への口出しは控えていただきたい」

ああ。侮辱されたと思ったのかな。

それならそれで構わないけど。どうせ私が今後この人と面と向かって会うことなんか……ないと思うし。

そんな先を心配するより、今は今のことしか考えられないし。

護衛官と王女の乗った馬はもう見えない。

大人ふたりの馬よりも、大人と子供の馬の方が負担は軽いし……などと、どうでもいいことを考える。