俺の服の裾を掴んだ林檎の手が、離れていこうとするから。俺はその手を片手で引き止めた。
俺よりも幾分か小さな手。細くて、白くて、今にも折れてしまいそうなのに、こんなにも暖かいだなんて。
「……信じなくていいよ、今の」
「な、なにそれ…。やっぱ冗談じゃん。郁也ってホント、サイテー……」
「まあ、俺はサイテーだけどさ」
「開き直るな!」
「……信じなくていいから、知っといて」
「あーハイハイ……って、は? …なにが?」
飽きれたような表情から、すぐに驚いた顔に変化する。その、コロコロ変わる表情も、見ていて本当に飽きない。
俺とは全然違う。素直できちんと自分をさらけ出す林檎に、惹かれたのかもしれない。
「……林檎のこと、好きだってこと。……知っといて」
時間が止まったように林檎が固まる。俺はそんな林檎がかわいくて、思わず頭をクシャクシャにしてやった。
「ちょ、ちょっと……え、どういうこと、」
「まあ、そーいうことだから。……よろしく」
「は、はあ……?」
俺と林檎の賭けは完全に俺の負け。……あとはお前を落とすだけだから。
……早く俺のこと、好きになれよ。なんて、口が裂けても言わねえけれど。
でも、その時、俺はいやな違和感を感じたんだ。撫でた林檎が、少しだけ、震えていたから。