あれから10分ほどで救急車が到着し、母さんと共に救急車に乗り込む。

だが、その間も母さんは目を覚ます事はなくそれが余計に俺を不安にさせた。
それを察したのだろうか、救急隊員の人が脈を測ってから、微笑んで「心配いらない」と言ってくれた。

俺はそれに少し安心して体の力を抜いた。


それから30分経った。
今はもう7時半になっていて、点滴も打ち大事をとり1日だけ検査入院となった。
母方の祖母にも連絡を取りここに着き次第俺は家に帰る事になった。

母さんはまだ目を開けない。
もう2度と目が覚めないんじゃ…

嫌な考えがまた頭をよぎり出した。
だがそれから間もなく、母さんの呻く声が聞こえた。

「ん、はぁっ、琉生!?琉生はどこにいるの!?」


母さんは目を開け体をすぐに起こそうとするも今までずっと眠っていた体で素早い動きができず、またベッドに逆戻りした。

母さんはそれでもまだよく事態が飲み込めていないようで慌てていた。

「母さん。俺はここだ、ここにいる。」
「琉生…。」


母さんは俺を目に映すと、途端に大粒の涙が零れた。
そして点滴を打たれているのにもお構い無しいや、気付いていないのかもしれない。
母さんは俺に手を伸ばし俺を抱きしめた。

「良かった…最悪のタイミングで電話が来ちゃうなんて、私もついてないわね。無事で良かった…。琉生が救急車呼んでくれたのね、ありがとう、本当に助かったわ。」


母さんは俺に喋る余裕を与えないくらい喋った。
あまりこの話題には触れて欲しくないようで俺も今はこの話題に触れるのはやめようと口を閉ざした。

それからすぐに祖母と祖父が到着し、俺は祖父によって自宅に送られる事となった。

「それにしてもお前はすごいなぁ。看護師さんや先生達が褒めていたよ。落ち着いた対応で、発見した時どんな具合だったとか脈をしっかりと測っていた所とか。良くやったな、驚いたろう今日はもう休めよ。」
「……あぁ。そうする。」


家に着くと祖父はそう言って肯定をした俺を見届けると満足そうに頷いてまた慌ただしく車へと戻っていった。

祖父の車が見えなくなるまで俺はずっと祖父の車を見ていた。

俺は家に入り、風呂場に直行した。

今日は色んな事がありすぎて頭ん中ぐちゃぐちゃだな、本当に。
さっさと寝ちまおう。

風呂から上がり、ベッドに入る。
なかなか眠れないだろうと危惧していたが案外体は疲れていたのか最近母さんのお気に入りのシトラスの香りに包まれ、意識は遠のいていった。