ガラガラーーー



教室のドアが開いた。

担任の先生が日誌を小脇に抱え登場する。


「皆さん、おはようございます」

「おはーざいま一す」


ここまではいつも通り。


「今日は出席を取る前に、新しいクラスメイトを紹介します」


「きたきた…」


斜め前の宮脇円香の声が聞こえてきた。

どうせ彼女がイケメン転校生を射止めるんだろうな。

もしくは、夏川樹里。

体格の良い遠野亜子の幼なじみで、女子の私の目から見ても可愛い。

チア部の宮脇円香とは違って、文化系の美女。
吹奏楽部でサックスを担当していて、夏の定期演奏会までは部長を務めていた。

但し、性格は最悪だけどね。



私は50パーセントの期待と50パーセントの諦めを心に抱きながらその時を待った。


「じゃあ、入って下さい」


タッタッタッタッタッーーーーータンタン。

教室の中央に立ち、彼が顔を上げる。











えっ…ーーー










あまりの衝撃に言葉を失った。





「自己紹介、お願いします」

彼がピカピカの黒板に真新しい真っ白なチョークで名前を書いていく。

クラス全員が彼に釘づけだった。



カタンーーー 



チョークを置く乾いた音が妙に鮮明に聞こえた。


「俺の名前は兵藤蓮。半年だけだけど、よろしく」




透き通った甘い声。

端正な顔立ち。

すらりと伸びた足。

そして、控えめな笑顔。









鼓動が尋常じゃない速さで鳴る。


ドクドク…ドクドク…ドクドク…ーーー

周りに聞こえているんじゃないかと心配になる。

血液が全身を猛スピードで循環し、頭がクラクラする。



これはさっきの掃除のせいじゃない。

明らかに、兵藤蓮のせいだ!!




「席は…」


先生が教室を見渡して、一点で止まる。

自動的に生徒たちの視線も動く。





ーーーまさか…





「窓側の一番後ろ。桜井さんの隣ね」



やったぁ!!









ーーーじゃない。

これはまずい。

非常にまずい。

どうしよう…





「じゃあ、移動してね」



彼がどんどん近づいてくる。

やばい。

お願い、来ないで。




タッタッタッタッタッーーータッ。




私の左隣で止まった。



「よろしく」


私は何も言えずにこくりと頷いた。

視線を斜め前に移すと、彼女がそれで良いと言わんばかりの顔で私を見つめていた。

言葉を交わしたら、きっと睨み殺されていただろう。









ああ、王子様…

どうか…ーーーどうか私を見捨てないで下さい。

お願い、助けて。

お願い、気づいて。

桜井乙葉はここにいます。