周囲に聞き耳を立てながら歩いていても、特に猫についての話題などは入って来なかった。

一応、無事に潜入したと考えて良いのかも知れない。


朝霧は奥まった場所にある階段へと差し掛かると足を止めた。

人の多いロビーから離れたそこは、シン…と静まり返っている。

上へ向かうのならば、間違いなくここを通るに違いない。


(『上へ向かうとすれば』…だがな。さて、どうするか)


朝霧は一旦後方を振り返ると周囲に目を配った。

目線は当然のことながら人々の足元や椅子の下などに集中してしまう。

だが、こうして見渡していても、それらしい姿は確認出来なかった。


自分的には、ミコは辻原を意識して行動しているものと思っている。

何故なのか理由は分からない。冷静に考えれば有り得ないとも思うのだが、どうしてもそこだけは譲れないのだ。

父親の荷物に紛れてここへ来たのも偶然なんかではなく、昨夜辻原が入院している話を聞いたからだと、変な確信さえ持っている程だ。


だが…。


入院している部屋を目指したとして、普通辿り着けるものだろうか。

そもそも、それなりに広いこの病院で子猫が迷わずに病棟のある上階へ向かうなど考えられないのではないのか。

(…とか考えていても、他に当てがある訳ではないしな)

結局は疑いつつも探さずにはいられないのだ。

(我ながら思考と行動が矛盾しているな…)

朝霧は一人苦笑を浮かべた。