「…嘘。佳穂が呼んでたからだよ」

「そう…」


なんだ、それだけか。

結局いつも通りだな。


なにも失っていないのに喪失感と脱力感に襲われる。

なんだ、これ。


「…俺も溜まり場に来て欲しかったから」

「え?」

「とか言ったりしてね」


それなのにひとつ言の葉を向けられれば、その気怠い気持ちは消え失せる。


ああ、びっくりした。

そんなジョーク面白くない。

笑えない。


無言になった私たちに足音だけが時間を刻むみたいに鳴っていた。


逢坂 湊との無言は心地いいのだが、今日は例外のようだ。


こういう時は無心でいるのに限る。

ただただ一歩前を歩く逢坂 湊の背中を見つめて歩き続けた。