どっかの、大企業にお勤めなんだろうという予想を遥かに上回っていた。
Bc square Tokyoという住所にもまずびっくりした。
大企業しか入っていなくて、そこのビルに入っている会社の人との合コンだけでも難しいと有名だ。

そんなビルに入っていて、まさかアーサーディレクションなんて。
誰でも知っている会社の副社長…。

「別に、肩書がなんだって俺は俺だし。絢香の生徒に変わりないんだから、今まで通りでいろ。」
絢香はその言葉に、名刺から顔を上げた。
まじめな瞳で見つめる晃と目があって、ドキンと胸が高鳴った。


その瞳は嘘をついてるような感じでも、騙すような感じもない気がした。

「あたしは、水澤さんがそれでいいなら、今まで通りにするよ。どんなにえらい人でも、あたしにとっては生徒さんで、ちょっと意地悪な水澤さんしか知らないから。」
と絢香は続けた。

「そうしろ。」
と少し照れたように晃は顔をそらした。

「水澤さん、たまに命令口調になるよね。そっちが地でしょ?いつも猫かぶり過ぎてるんじゃない?」
と絢香は少しふざけて言った。
「うるさい。冷めるぞ。」
と晃は目で料理を促した。

絢香は、ふっと笑うと、料理に手を付けた。

(ー この人にもいろいろあるのかな。地位も名誉もある人だとわかったが、あたしは目の前にいるこの人しか知らない。素直じゃなくて、少し意地悪だけど、優しい人。)

絢香は、少し心が温かくなったのを感じた。