北の小さな橋は常に警備の手が薄くて有名だった。
賊が入り込むのも、いつもここからだった。




「ひ、姫様?なぜ帰ってこられたのです。死にたいのですか」
「死にたがりと一緒にするのはおやめなさい。そんなことより、毒林檎売りの少女の処刑が早まったと聞きました。なぜです?」




作戦は簡単でかつ大胆だった。
あたしが警備の者と話している隙に、六花が城へのルートを確保する。
危なくなったら薬売りの毒薬で応戦する。




隙だらけのこんな作戦でうまくいくのかと不安しかなかったのだが、今夜の警備はたまたま昔仲良くしていた警備隊長だったため、難なく手筈が整っていく。





「どうやら貴女様の居場所を言うのを渋ったらしいのです。生きていても貴女を殺すための有益な道具になり得ないとお妃様が憤慨して」
「そういうことですか。では急がねばなりませんね」
「姫様?!なりません。姫様には良くしていただいたご恩がありますが、いくらなんでも無謀すぎます」





無謀かどうかなんて自分で決めるわ。
やる前から無謀だと諦めるなんてあたしはしたくない。
そんなの一国のお姫様のすることじゃないわ。
そうでしょう?




六花によって開かれた門に、警備隊長が驚いたように振り返る。
その隙をついて門まで走れば慌てて追いかけて来る警備隊長。
あたしが城にいた頃、彼はサボり魔で有名だったのに、いつの間にちゃんと仕事するようになったのかしら。





「見逃しなさい、警備隊長。あたしには成さねばならぬことがある。もしも生きて帰れたらそのときはまた、あたしの警備隊長になってくれますね?」





警備隊長が息を飲むのが解る。
ここから先は本当に危険。
それでもあたしを信じてついて来てくれる薬売りと、誰より愛しい六花がいる。
あたしはもう何も、怖くなんてない。




「……今夜の牢屋番は私の妹、きっと良くしてくださいます。件の娘の処刑は明日の午前です。私は何も見ておりませんので、早くお行きなさいませ」
「あら、親切にありがと。貴方の妹なら話は早いわ」
「無事のお帰りをお待ちしております、姫様」




本当に何もいなかったかのように警備の定位置に戻る警備隊長。
あたしは良い家来たちに恵まれていたのですね。
城にいた当時は気付けなかっただけで。