爽やかな陽気に照らされながらお洋服だけでなくお布団も干しちゃえー!とせっせと家事をしている間に、彼は家を出て行ったようで、お弁当は机の上から消えていた。
〝行ってきます〟くらい、言えばいいのに。
薄情というか、馬鹿な人というか。




声をかけなかったのは、あたしが家事をしていたから?
邪魔をするまいと気を遣ったの?
いいえ、あの馬鹿にそんなことは出来るはずがないわ。




「寂しいな……」




ずっと言えなかった弱音。
お妃様に命を狙われ命からがら逃亡して。
助けてくれた六花は冷たくてツンデレで、何を考えているのか見せてくれない。




相手のことを思って隠すその思いはある種美しくもあるけれど、決してそれが正解とは限らない。
たまには全てを嘘で塗り固めた方が良かったりもする。
それをよく互いに解っているからこそ、隠すことが正解だと言い張ってしまうのだと思う。





欲しいものはなんでも手にしてきたと思っていた。
でもそんなのは表面上だけだったのだろう。
お金で買えないものを手にする方法なんて、とうの昔に忘れてしまった。




「大好きじゃ足りないのね」





いつも素直になれずに罵倒してばっかりのあたしには、どうすれば素直に六花にあたしを頼るように言えるのか解らない。
何も学ばぬ今のあたしが言えばそれは命令にしかならない気がして、彼が疲れゆく姿を見続けることしか出来ないのだ。




本当に寂しい。
何不自由なく全てを与えられる、レールの敷かれた人生がこんなにも寂しく寒いだなんて思わなかった。
産まれた時から名前も知らないたくさんの人たちに愛されていたから、独りになる想定なんてなかったから、それを学ぼうとしなかった。





六花を幸せにしたい、そんなある種当たり前の望みは、何故溶けゆく雪のように儚いの。
あたしは普通のことしか、祈っていないはずなのに。