その瞬間、体を愛車に押し付けられた。


有無を言わさず唇をふさがれて、驚いて口を開けた隙に熱い舌が滑り込んできた。
何度も角度を変えて与えられる獰猛なキスに、息もできない。
窒息する寸前に一瞬離れて「他の男の名前なんか呼ぶな」と言うと、自分の言葉に苛ついたみたいにキスが加速した。

肩を押えていた手が、私の髪や耳や背中を通って体をそっと撫で上げていく。
確かめるようになぞる指先から電気が出てるみたいに、びりっと体の奥に響いてくる。
ぞくぞくする腰から力が抜けて立っていられない。
崩れそうになった体を掬うように支えられて、社長の唇が私の耳を挟んだまま「帰ろう」と囁いた。
思わず体がぶるりと震えたのに気づかれて「感じた?」と意地悪く笑われる。
耳元で囁くとか止めて欲しい。この人わざとやってる。
何だかムカついて軽く胸を叩いたら、何がおかしいのか余計にくすくす笑い出した。

「可愛い」

「馬鹿にしてる」

「まどか」

「何ですか」

「好きだ」



…え?
頭も体もふわふわ。
耳もおかしい。とうとう幻聴が聞こえてきたよ。


「君が好きだ。まどか」



うそ…。

見上げると、社長が優しい笑みを浮かべて私を見ていた。



「バカだな俺は。あの時はあんなことを言ったけど…離れている間、辛くて会いたくてたまらなかった。」

「だって…恋愛できないって…」

「そう思い込んでたんだ。まどかは特別だって分かってたけど…まどかも変わってしまうんじゃないか。そう思って怖かった。逃げたんだ」


でもダメだった。
親指で優しく頬を撫でられながら、社長は苦笑を浮かべた。


「星野と抱き合ってた君を見た瞬間、自分がバカだと気付いた。まどかが誰かのものになるなんて、そっちのほうが耐えられない。だから覚悟を決めた」


まだ、俺のことを好きでいるなら。





「俺と恋愛しよう、まどか」