男に声をかける。

「その子謝ってるじゃん!許してあげなよ

私は今にも女の子を殴りそうな男の腕を掴む

女の子は安心したようにさっと男から離れる。

「女の子に手をあげるなんてそれでも武士?

ギリギリと、男の腕を掴む手に力がこもる。

「ぁあ?! 生意気な女だな!! その手を離せ!!!

ぶんっと振り払われそうになったので、ぱっと離す。

男は既に掴まれていない腕で空を裂く。

「こんのっ…!!

男が逆上しだした。うわあ怖い

男が刀を抜いた。

「やーめーてーよー!!

私はショルダーバックからおもちゃの銃を取り出す

うまく騙されてくれよっ!

「なっお前それっ

「うん。見ての通り銃だよ。少しでも動いたら打つから。助かりたいなら刀を置いてさっさと逃げて?

刀を置けといったのはただ単に私が刀を欲しくなったから。

冷たい目で男と睨み合っていると、観念したように刀を道に起き、去っていった。

武士なら突っ込んできてもいいとこを…

でもよかった!おもちゃで勝てた!

刀を拾い、眺める。

本物だあ…

すると、助けた女の子がやってきた。

「あのっ、ありがとうございました! お礼に何かさせてくれませんか?!

「礼には及ばないよお!無事でよかった!あそうだ、お礼はいらないけどさ、今日は何年でここはどこかだけ、教えてもらってもいい?

にっこり笑顔で言う。

「本当にありがとうございます…
今は1852年、そしてここは江戸です。

「ありがとう。じゃあ私行くね

「あっ、待って…

そのまま去っていく私、少しかっこいいかも

それにしても1852年かあ。なんか楽しいことあったかな…

あ、来年ペリー来航じゃない?

またしてもブラブラと道を歩いていると、なにか柔らかいような硬いようなものを踏んでしまった

「わぎゃんっ!!

…犬?

私はどうやらこの逞しいムキムキマッチョ犬の尻尾を踏んでしまったようだ。

「あ…ははは、ごめん

ダッ!!

今にもとびかかりそうな犬に背を向け走り出す。

そんなことをすれば当然犬も追ってくるわけで…

「きゃぁあ!ごめんゆうたやーーん!

エセ関西弁が出るほど全力で逃げるが、こいつがなかなか速い。

ううっこのムキムキめ!

私は近くの家の塀に飛び乗る。

犬はそんな私を見上げ、元気よく吠えているし…

「もおごめんっていったじゃん!許してよ!あ!お弁当のエビフライあげっから!

私はショルダーバックからお弁当を取り出し、エビフライを犬に投げる。

犬は少し警戒して匂いを嗅いだ後、エビフライを加えてどっかに逃げてしまった。

「ふぅ…。一件落着ってうわあ!

私が振り向き、この塀の家を見ると、小学生くらいの男の子が目を丸くしてこちらを見ていた。

女の子みたいな顔だが、袴を履いているので男の子がだろう。

手には小さな食べかけのおにぎり。

ご飯中かな?

「君、ご飯中だった?ごめんね?驚かせちゃって!

大声で笑顔で言うと、男の子はビクッとして、おにぎりを落としてしまった。

「ああっ!!

男の子は庭に落ちたおにぎりの前でうなだれ、こっちを睨んできた。

「どうしてくれるんですか? ていうかあなただれですか!塀に勝手に上がりこむし。おにぎり落としちゃったじゃないですか!!

おおっ?! ずいぶん綺麗な言葉遣いの男の子だな

なんて思ってる場合じゃないな

私は塀を庭の方に降り、男の子の所までかけていった。

「ほんとごめんっ! お詫びに私のお弁当あげるからさ、許して?

手を前で合わせ、覗き込むように謝る。

すると男の子は目を輝かせて

「ほんとですかっ?!なら許してあげます

ニコッと笑った。

か、かわいいいい!!

「いやーん!なにその笑顔!かわいすぎでしょ!天使?天使なの?

急にテンションがおかしくなった私を男の子は変なものでも見るような目で見てくる。

「それより早くお弁当ください

「ああ!はいはい。

私はショルダーバックからまたもやお弁当を取り出し、渡す。

すると男の子訝しげな顔をして、

「これ、本当にお弁当ですか?

「え?うんそうだよ?

「こんな器みたことないです

「え?ああ。いや、…これはこれでれっきとしたお弁当だよ!

「へぇ〜

「もしかして食べる気なくしちゃった?

「いえ、いただきます。

おおっここでも礼儀正しい…

そうか、この時代じゃプラスチックの容器なんてないよね

せめて木のお弁当にすればよかった!

男の子の様子を見ているとなかなか蓋を開けない

「どうしたの?食べないの?

「これどうやって食べるんですか?

そのお弁当は両端をカチッとするタイプのやつだった。

「ああ!ごめんごめん!気ィ効かなかったなあ!

私は蓋を開け、ついでに箸ケースに入っていた箸も取り出し、男の子に渡す。

「はい。どうぞ!