ケータイ小説 野いちご

理想の恋は、誰に微笑む




そのことに関しては、何も言い返せなかった。

この土地柄で、あの賃料で借りられる家は他にない。

今でさえギリギリなのに、これ以上家賃にとられるのは無理だ。


「じゃあ、斜め下の人は……?」

「先月いっぱいで退居したよ」

「え!?」

「これで、あのアパートの住人はお前たち母娘だけだ」

「……っ」


まさか、取り壊すとか言わないよね?

うっすらと血の気が引く。


「ここ1ヶ月の雨や暴風で、そろそろ退居させたいって親父は言ってる」

「っ」

「……けど。まぁ、お前んちの状況見たら無理だろうな」

「……!」


まるで独り言を言うかのように、春名がため息を零した。


「お前って、理由もなく金持ちの男漁ってんじゃなく、本当にただの貧乏だったんだな」

「!!!」


そして向けられた、憐れむ瞳。

どうしていつも、こいつは一言多いんだ!


それからは、毎度の如く。

春名と向き合うと飛び出す暴言のオンパレード。


「は、はじめちゃん……!? 唯聡くん……!?」


いつの間にか、唯聡くん呼びになっているお母さんに、思わず目を剥く。


「ああ、喧嘩しないで……!? お母さん、なにかまずいこと言っちゃった……!?」


そうしておどおどと、怯えだすお母さんに、あたしも春名も喧嘩の手を緩めた。

外は囂々と雨風を打ち付けて、だけど心は嵐の夜にも関わらず、ほんの少しだけ晴れやかだった。





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