「……う、ううん!」

核心を突かれて思わず頷きかけたけれど、慌てて否定する。けれど、向けられる眼差しに狼狽えてしまう。

「蘭に嘘はつけないから」

「……ひどい」

「今さらでしょう?」

中学生からの付き合いとあって、菫はお見通しだと言いたげに微笑んだ。とっても気さくなのに、優雅さと気品溢れている彼女。

東条家という名家に嫁いだからこそ実感するの。今も昔も変わらない、この関係がいかに貴重で心地よいものなのかを。

何より彼女の支えがあったからこそ、拓海を好きでい続けられたの。何が起きても、どんな時でも温かく見守ってくれたから……。


一ヶ月ぶりとなった親友との時間はあっという間に過ぎていく。

名残惜しさを感じながら彼女に断りを入れてスマホを手にした私は、拓海へ今から帰宅する旨をLINEで知らせた。

するとその直後、彼から迎えに行くという折り返しの連絡が入ったので驚かされる。

「蘭、そこで待ってて」

「あ、あのね、拓海。忙しいでしょ?だから、ひとりで」

「それならもう心配いらないよ。あとは祐史が処理するし。じゃあ、もう出るから一旦切るよ」

電話口から、“ちょっと待て。俺が蘭ちゃん迎えに行くって言っただろ?って、おい拓海……!”と、ゆーくんの声が聞こえたところで通話が途切れてしまう。


このままタクシーか車を呼ぶから、やんわり大丈夫と伝えようとしたのだけれど。

電話越しに聞こえる清涼な声には敵わなくて。結局、いつものように了承してしまったの。

残されたゆーくんはきっと拓海の代わりに仕事に忙殺されるはず。……後日きちんとお詫びしようと心に誓った。


そうしてスマホをバッグにしまうと、今度は前方から笑い声が聞こえてきたので顔を上げる。

楽しそうな菫に首を傾げたくなるのを留めた私は、次の彼女の言葉で頬を赤らめることになる。


「ね?だから言ったでしょ?東条さんは蘭しか見てないって」