「母さん、それは違うよ。俺は唆されてなんかいない」


「っ、シュウ‼︎この子に何か弱みでも握られているの?」


「何を言ってるんだよ。そんなわけないだろう。家出をしたのは俺の意思だ。それを言うなら俺がサチを唆して連れて来たんだよ」


「やっぱり。あたなはこの子に洗脳されてるのよ。じゃないとあなたが家出なんて……」



お母さんはシュウの真横に移動すると、その腕を掴んで揺すった。

シュウは自分を揺すり続けるお母さんの手を握ると、強引に引き剝がす。

シュウのその行動に、お母さんはショックを受けたように瞳を揺らすと唇を噛んだ。



「目を覚ましなさい、シュウ!弱みを握られているならもう大丈夫。怖いことなんてないのよ。私達が守ってあげるわ。あなたは母さん達の側で、何の心配もせずに治療と勉強に専念してくれれば、」


「いい加減にしてくれ‼︎‼︎」



お母さんの言葉を遮ってシュウが叫ぶ。


お母さんは目を見開いて息を飲んだ。
お父さんは腕を組んだまま、ずっと閉じていた瞼を上げシュウを見据えた。



「そういうのがもううんざりなんだよ!俺はあんたに飼われた従順な鳥じゃない」


「どういう、こと……?」


「もう放っといてくれないか……俺は、自由になりたい」



切実な震えた声がリビングに響いた。

お母さんは言葉を失ったまま、シュウがそんなことを言うなんて信じられないと言わんばかりにシュウの横顔を見つめている。


数秒の沈黙の後、固く口を閉ざしていたお父さんの口が開いた。