少し歩くと、昔ながらの立派な門構えと日本家屋が見えて来た。

シュウが肩に担いだボストンバッグを下ろすとインターホンを押す。


その間にふと後ろを振り返ると、素晴らしい景色が広がっていて、「うわぁ‼︎」と思わず声を漏らした。


ここはやや高い丘の頂上付近に位置していて、駅からやや緩やかな坂道を十分程登ってきた。

標高がどれぐらいかわからないけれど、視界一面にダイアモンドみたいに輝く海が広がっている。


私が生まれ育ったあの街とは全然違う。


空気が綺麗で美味しい。
思いっきり深呼吸をすると、胸がスーッと軽くなる。

空も広く、透き通った青。真っ白い雲。
自然が多く、この街を歩くだけで心が癒された。


まるで天国に来たかのようだ。



「こんな所があったんだ……」



つい溢れた独り言に、シュウが「ん?どうした?」と私の顔を窺う。



「この景色……凄く綺麗だなって思って」


「だろ?俺も初めてこの景色見た時は時間を忘れて魅入ったよ」


「私……死ぬ前に思い切ってあの街を飛び出して良かった」


「俺らみたいな子供は住んでる街と学校の極小さな世界が全てだと錯覚しがちだけど、それは違う。世界は広い。世界には優しい人も温かい人も沢山いるんだ。あの小さな世界に囚われて人生を終わりにするなんて勿体無い」


「うん……そうだね」



シュウの言う通りだ。
世界は広い。あの街が全てじゃない。

思い切って飛び出せば、世界は違って見える。人生観が一瞬で変わるんだ。



「じゃあ行こうか。おじさん達が待ってる」