ケータイ小説 野いちご

暇つぶしに恋はいかが!?

 そんな私に対してやっぱりチーフはチーフだった。別に何かの言葉を期待していたわけではないが、私が服装に悩みに悩んだことなんて、いくらチーフでもそこまで読めていないだろう。ヒールを履いて来なかったことは正解だったが、今はそんなことよりもこれ以上、チーフを待たせるわけにはいかない。
 
 チーフから渡されたお茶を鞄にしまって斜め後ろを歩く。なんとなく横を歩くのは躊躇われたから。チケット売り場は列をなしていたが、どんどん前に進んでいったのであまり並ばずにすみそうだ。

「水族館でよかったですか?」

 ここで隣になったチーフに改めて尋ねる。自分で行き先を決めておいて失礼かもしれないが、なんとなくチーフと水族館は似付かわくない組み合わせのように思えてしまう。興味があるのかどうかも怪しいし、美術館や博物館の方が似合いそうだと思ったのは水族館に行くことを伝えた後だった。

「嫌だったら、来ていない」

「チーフはいつもそういう言い方ですね」

 前を向いたまま、どこかで聞いた切り返しに私は肩を落とした。

「宮城こそ、なんでいちいち訊いてくるんだ?」

 チーフが私の方に顔を向けて、今日初めて目が合った。

「なんで、って」

「宮城の好きなところでいいって言ったのは俺だし、ここに来ることは事前に聞いていた。なのに、どうしてそんなに俺に伺いを立てるんだ?」

 怒っているわけでもなく純粋に尋ねられたのがわかるのに、なんだか虚を衝かれた気分だ。

「それは……チーフは上司ですし私の意向で無理させてしまうのも申し訳なくて」

「今はプライベートで会ってるんだから、上司とか気にしなくてもいいだろ」

「そういうわけにもいきませんよ」

 まだチーフは何か言いたそうだったけど、そこで我々の番が来たので大人しくチケットを購入する。前の食事は出してもらったし、今回は私が提案したことなんだから、私が支払うつもりだったんだけど、そこはチーフにあえなく却下されてしまった。

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