あいつが言い出した弾き合いだとしても、聴く人があの先生とクラスメート達だったとしても、本番には変わりがないのに。


なんで、そんな本番前に取り乱してるんだろ…。


こんな事、本当に初めてだ。


「やばい、どうしよっ。」



うわぁ。

どうしようどうしよう。




「ねぇ、純怜、今日のお昼なに食べるの?
私、お腹が空き過ぎて、あいつの演奏聴く元気もなくてさぁ。」







「ッフへ?
何それ‼︎
あははははッ‼︎」


「っちょっと、純怜、静かに‼︎」


「ごめんごめん、あまりにも華菜がのんきだったからさ、力抜けちゃったぁ。」


「ふぅ、よかった。」


「へっ?」


「純怜取り乱してたでしょ?
珍しいこともあるもんだね。
あの純怜がねぇ〜。」


「華菜、気付いてたの?」


「気付かないわけないでしょ?
私を誰だと思っているのよ。
じゃなくて、言葉に出してたじゃないの。」


「…あ、そう言われれば、そうかも?
私もまだまだだねぇ〜。」


「なぁに言ってんのよ、純怜っ。」


「イテっ」




なにすんのよ、なんて思いながら華菜を見ると、笑顔の彼女。




「ほら、行っておいで。」




気づいたら、あいつのアンコールの演奏も終わってた。




「「きゃー‼︎奏様素敵〜‼︎」」




みんな拍手を送ってる。


そっか、華菜は私を落ち着かせてくれたんだ。

今まで誰にも頼れなくて、1人だと思ってた。


それは、これからも、舞台の上では変わらないけど、でも心の支えになる人がいるって、こんなに安心できるんだ。




「華菜、本当にありがとう。」




「いいわよ。貸しにしとくね。」




っそうくるか‼︎

…まぁいいや。

本当に今回は感謝してるし。




「じゃあ、今度、新しく駅前にできたカフェに行こう‼︎」




ニコッと笑って、舞台袖の幕のところで体をほぐす。

さぁ、行こうかな。




あっそういえばっ。




「華菜、お腹減ってても私の演奏は聴いてくれるよね?」


「へっ?」




ポカンっとしてる華菜を残して、眩しい光が鋭く刺す舞台へ一歩を踏み出す。


分かってるよ、華菜が私の演奏を聴いてくれることぐらい。

あんな事をいったのは、私の気を紛らわしてくれる為だったんだよね。


でも、華菜の手を借りるまで、心を乱したことが、ちょっと悔しくて、情けないから、少しくらいからかわせてよね。