「お子さんの名前は?」彼が急に聞いてきた。

「・・・美羽っていいます」

「いいお名前ですね・・・」

「ありがとうございます」

「美羽・・そろそろ行くわよ・・」

「はーいママ・・じゃあね・・あきちゃん」

「本当にありがとうございました」

「いいえ・・それでは・・」

すれ違う時・・・彼が私に囁いた・・・

「紗那・・・・」

その声に驚いたが何も反応はみせなかった。

そのまま振りかえることはなく歩いていった。

あなたに名前を呼ばれたのはあの日以来だった。

別れた日・・・あの日あなたは私に謝った・・・ごめんって・・

今では懐かしい話・・・もう終わったこと・・

でも最後に・・そっと振り返って後ろを見てみた・・・

彼の背中が遠くに消えていった・・・

もう会うことはないだろう・・・ふっと笑ってしまった。

「ねぇ・・ママ・・」

「ん?」

「またあきちゃんに会えないかな・・」

「もう・・無理よ・・知らない人だから・・」

「そっか・・・そうだよね・・・」

初めて・・・子供に嘘をついた。

本当は知ってるの・・・

今でも覚えてるの・・・彼のこと全部・・・

でもこれは言えない・・・もうお互い家族がいるから・・

本当のことが言えなくてごめんなさい・・・