当時の私は、『りりぃ』という名前が古めかしくて大嫌いだった。

でも、頼三さんに呼ばれると、その名前には特別な響きがあるような気がして…幸せに思えた。
ずっと呼んでいて欲しくて、借りて帰った本をソッコーで読んでは返しに行く…という日々を送ってた。

そんな頼三さんが病に倒れたのは、私が大学4年生の時。
風邪をこじらせて、肺炎になった…と聞き、すごく心配してしまった。

図書館も暫く休みとなり、借りてた本も返せない日々が続いてた頃、久しぶりに図書館の前を通ったら、シャッターが上がってて。


(頼三さん、お元気になったんだ…!)

喜び勇んでドアを開けて中に入った。
館内の雰囲気は変わらなかった。

少し埃っぽい空気も、本の乱雑さもそのまま。
だけど…頭の上から聞こえる声が違ってた。


「いらっしゃいませ」

張りのある声に驚いて振り向いた。

…見た事もない若い男性の姿に、一瞬、胸がドキッと鳴った。だってそこには、若返ったのか思うくらい頼三さんによく似た雰囲気の人が、座ってたから。


「あ…あの…館長さんは…?」

ドキドキしながら声をかけた。
その人は、平たくて薄いメガネの奥から私を見て…

「…亡くなりました…」

…小さな声で答えた。


ガーン…と、ハンマーで殴られたかのようなショックを受けて、その場に立ち竦んだ。
モノも言えなくて、黙ってる私の横に、その人はやって来て…